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研究成果

セントロメア構造の維持には、ヒストン修飾と転写のバランスが重要であることが明らかになりました。

2017年2月9日

  染色体の分配維持機構(セントロメア機能)に乱れが生じると、染色体数の異常や細胞死、細胞のがん化など様々な悪影響が生じます。かずさDNA研究所で作製された、合成反復DNAからなるヒト人工染色体(HAC)を用いることで、セントロメアの構造形成機構や維持機能を詳しく調べることができます。

  セントロメアの構造形成や維持には、ヒストンH3の一種であるCENP-Aタンパク質を含むセントロメアクロマチンの集合が必須ですが、同じ反復DNA上へは、これとは拮抗するヘテロクロマチンタンパク質も集合します。クロマチンを構成するタンパク質のひとつであるヒストンが受けるアセチル化・メチル化・リン酸化・ユビキチン化などの化学修飾は、これらタンパク質の集合に大きく関わっています。

  研究グループは、ヒストンタンパク質の化学修飾のうち、ヒストンH3の4番目のアミノ酸、リジンのメチル化(H3K4me2)とセントロメア領域における転写活性が、セントロメアクロマチンの維持に及ぼす影響を調べる実験を行いました。

  まず、ヒト人工染色体(HAC)のセントロメア反復DNA領域に、脱メチル化酵素LSD2を結合させてヒストンH3の4番目のリジンのメチル化(H3K4me2)を失わせると、転写活性の低下と共にCENP-Aの集合量の低下が起こり、逆に、ヘテロクロマチンの修飾であるヒストンH3 の9番目のリジンのメチル化(H3K9me3)領域が拡大しました。この時、転写に連動したアセチル化に関わるCENP-28/Eaf6を同時に働かせて、ヒストンH4の12番目のリジンをアセチル化(H4K12ac)しても、CENP-A量の低下を救援できませんでしたが、p65による転写に連動するヒストンH3の9番目のリジンアセチル化(H3K9ac)は、CENP-A量の低下を救援できることがわかりました。

 これらの結果は、セントロメアにおける転写活性とH3K9ac化を含むヒストン修飾が、CENP-Aの集合とセントロメアクロマチンの維持を許可する「エピジェネティックな景観」を作り出すことを明らかにしました。また、H3K4me2修飾は、転写活性化とH3K9ac化によってヘテロクロマチンの侵食からセントロメアクロマチン守る防波堤となっていることが示唆されました。

  この研究成果は、染色体の安定分配機構に関わるセントロメアクロマチンとヘテロクロマチンの集合機構の解明と、今後の人工染色体ベクター開発に役立ちます。

  研究成果は、2016年11月14日付けのNature Communications誌で公開されました。この研究は、英国エジンバラ大、NIH(米国国立衛生研究所)との共同研究です。

論文情報:
Molina O, Vargiu G, Abad MA, Zhiteneva A, Jeyaprakash AA, Masumoto H, Kouprina N, Larionov V, Earnshaw WC.
Epigenetic engineering reveals a balance between histone modifications and transcription in kinetochore maintenance.
Nat Commun. 2016 Nov 14;7:13334.
doi: 10.1038/ncomms13334
論文のURL: http://www.nature.com/articles/ncomms13334