[第2シリーズ] 第2回

「デメキンの眼はなぜ出ているのか?ゲノム研究で病気と進化の謎を解く」Q & A

回答者:大森義裕先生

【 質問1 】
 子供時代に10年ほど実家で金魚を飼っていましたが、琉金やコメットや和金にくらべ、出目金は弱くて、他の金魚よりすぐ死んでしまう印象がありました。出目である遺伝子の変異と何か関係があるのでしょうか。環境の変化に弱いとか病気に弱いというのが個体に依存するのかもしくは、種に依存するのか気になりました。
【 回答1 】
  金魚の品種では、複雑なものほど弱いのは事実です。野生型のフナに近いワキンが最も強く、ランチュウやチョウテンガン、ピンポンパールのような変異が多く入ったものが弱い傾向があります。金魚の変異は一種の「奇形」なので体の見た目以外にも内蔵や体質の様々な部分に変調をきたしていると考えらます。また、品種を維持するために近親交配を繰り返しているのも弱くなる原因となります。このためは、環境というよりは品種の遺伝的性質に依存すると考えられます。
【 質問2 】
  GWASについての質問です。最初に、多様な品種の金魚について全ゲノム解析したデータをストックしておけば、このストックデータを用いて、順次、各品種についてマンハッタンプロットを作成することで、当該品種の表現型の発現の原因となる遺伝子座を決定(推定)できるという理解でよいでしょうか?
【 回答2 】
 その理解でOKです。今回発見されなかった変異も、このデータの中には含まれているはずで、将来これらのデータから変異が見つかる可能性も高く、今後、永くにわたって使えるデータとなります。
【 質問3 】
  メダカでも最近非常に多くの「品種」が出ていますがこれらも遺伝子の変異から来ているのでしょうか。
【 回答3 】
 そのとおりです。現在、メダカ品種についてもゲノム解析を進めています。近いうちに発表できると思います。
【 質問4 】
  金魚の品種により、遺伝子が異なっている部分があるということですが、これは進化とよんでよいのでしょうか。異なった品種の作出・発見は人間が行っているので、わりと短い時間に起こっているようですが、進化というと、非常に長い時間でおこる現象と思っていました。
【 回答4 】
 基本的には進化ではありません。人間が抽出しているものであって、人為選択です。「人為進化」という表現はあります。
【 質問5 】
  ゲノム重複のメリットとデメリットは何でしょうか?
【 回答5 】
 生物にとっては、突然多くの遺伝子を獲得できるので、環境が激変したときなどに、適応能力が飛躍的に高まる可能性があります。ただ、数億年に1度レベルしか起こらないまれな現象であるので、一般的にはあまりメリットがないということかもしれません。
【 質問6 】
  GWASについて質問です。複数の遺伝子の相互作用によって表現型が変化する場合でもピークを観察できるのでしょうか。またできる場合,解析に最低限必要な母数はどのくらいになりますか。
【 回答6】
 相互作用がある場合もピークを観察できます。しかし、ピークを分けられるのは2-5個程度までの遺伝子数です。GWASは最低、50匹ぐらいからとなります。
【 質問7 】
  出目や長い尾びれなどの特徴は、人でいう障害のようなものなのでしょうか?生きていく上で問題がないというだけで、遺伝子的には障害と同じようなことが起きているのですか?
【 回答7 】
 そのとおりです。一種の「奇形」です。
【 質問8 】
 GWAS解析による金魚の‘形’と遺伝子の同定、それに紐付いたヒトの疾患についてよく理解できました。さて、品種改良された金魚はフナと比べて寄生虫・細菌感染が起こりやすく尾腐れやエラ病など様々な病気に罹りやすいと考えているのですが、そのような’病気’に対する先天的要因(免疫系の遺伝子欠損など)は何か研究されてますでしょうか?また金魚の病気と免疫に関する遺伝子が、ヒトにも共通している可能性について何か知見があればご教授いただけますと幸いです。
【 回答8 】
 金魚の寄生虫・細菌感染に関しては、遺伝的な研究が難しく、あまり行われていないように思います。ただ、重要な問題であるキンギョヘルペスについては多く研究されています。しかし、決定打という方法はまだありません。金魚を含む魚類も、哺乳類と同様獲得免疫があり、かなりの部分が人間と共通です。以下、メダカの免疫系の研究室のサイトです。ご参考まで。https://www.miyazaki-u.ac.jp/agr/books/book-abs/post-62.html
【 質問9 】
  全ゲノム重複が脊椎動物でしか発生していない理由というのはわかっているのでしょうか。
【 回答9 】
 植物や他の多くの生き物でも全ゲノム重複は起こっています。ただ、昆虫に共通の全ゲノム重複が無い理由はわかりません。どちらかというと、全ゲノム重複が起こる方がめずらしく、全ゲノム重複が起こらないほうが普通なのかもしれません。
【 質問10 】
  全ゲノム重複した染色体が、シングルに戻るものと戻らないものがあるという状態がよくイメージできませんでした。例えば2n=50だった染色体が全ゲノム重複したのちシングルに戻った染色体と倍加したままの染色体が混在している場合、染色体は何本あるということになるのですか?
【 回答10 】
 染色体レベルではすべての染色体で重複するのでいくつかの染色体がまるごとシングルになることはありません。遺伝子単位でシングルになるものが出てきますので、重複した染色体の中で、シングルのものとダブルのものが混在したかたちになります。
【 質問11 】
  上の意見感想の続きになりますが植物のヤマグワの葉は切れ込みがない葉から深い切れ込みがある葉まで様々ですが、これもDNAが関わっているのでしょうか?
【 回答11 】
 1つの個体のなかで、いろいろな形の葉があるのでしょうか?そうであれば遺伝子の変異ではない可能性が高いです。株によって違ういろいろな葉があり、その性質が遺伝するならば遺伝子の変異がかかわっていると考えられます。
【 質問12 】
   出目金に特異的な遺伝子を発見することで、ヒトの疾患研究への貢献ができることに驚きました。大変興味深く思います、このような事例を他にも教えていただけると幸いです。
【 回答12 】
 他に体色の原因遺伝子(OCA2)が人間の白皮症と同様であったことがあげられます。骨の変異も疾患に関連するものがありそうです。現在、研究をすすめているところです。
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