[第3シリーズ] 第1回
「新しい植物バイオテクノロジー技術」Q & A
回答者:土岐精一先生
以下の回答は、公的な回答でなく、あくまでも回答者の個人的な考えであることをご承知おきください。
【 質問1 】
遺伝子組み換え技術とゲノム編集技術の説明を伺いますと、やっていることは同じような感じを受けますが、遺伝子組み換え技術をさらに高度化したものがゲノム編集技術である、という理解でよろしいのでしょうか。
【 回答1 】
ゲノム編集に使用するゲノム編集酵素の遺伝子を、遺伝子組換えの手法を用いて外来遺伝子として細胞内に導入する際は、遺伝子組換え技術を利用します。一方ゲノム編集は内在性の遺伝子を改変する技術であり、改変が終われば外来遺伝子を除いても導入された形質は維持されます。したがって、農業・産業利用においては、不要になったゲノム編集酵素遺伝子は除去する場合が多いと考えられます。
また、ゲノム編集に用いるツールを遺伝子(DNA)でなく、タンパク質の形で細胞内に導入しゲノム編集を行うことも可能になって来ており、この場合は従来の遺伝子組換え技術とは異なる手法だと考えることが出来ると思います。
また、ゲノム編集に用いるツールを遺伝子(DNA)でなく、タンパク質の形で細胞内に導入しゲノム編集を行うことも可能になって来ており、この場合は従来の遺伝子組換え技術とは異なる手法だと考えることが出来ると思います。
【 質問2 】
ゲノム編集の安全性を伝えるためのセミナーなどを行ってこられたとのことですが、具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。また、その取り組みの効果はどのようなものだったのでしょうか。
【 回答2 】
ゲノム編集技術の概要や、ゲノム編集植物体において外来遺伝子の残存が無いことをどのようにして確認するか等について、一般の方を対象としたセミナー等でお話しております。セミナー後には技術について理解できたことで、ゲノム編集技術について期待できるようになったというご意見を頂いております。一方、技術について理解できても未だ何となく不安だというご意見もあります。不安も解消できるように今後も情報提供を続けていくことが大事だと考えております。
【 質問3 】
植物において遺伝子組み換えとゲノム編集ではどちらの方がより費用がかかるのですか?
【 回答3 】
基礎研究としてアカデミアが研究で利用する場合は、費用はあまり変わらないと思います。一方、改変した植物の農業・産業応用を考えると遺伝子組換え体の場合は(その利用形態によっても変わりますが)、現状では安全性確認の評価のためにかなりの費用がかかります。これに対しゲノム編集の場合は基本的には外来遺伝子の導入が無く、変異も通常の突然変異育種で得られたものと同等であると判断されれば、非組換え体として扱うことが可能なので、安全性評価にかかる費用は遺伝子組み換え体ほどかからないと思います。尚、遺伝子組み換えの場合は遺伝子の導入法や導入ベクターが知財化されていれば、実施許諾料を払う必要があります。また、ゲノム編集の場合も同様でさらにゲノム編集酵素の利用についても許諾料がかかります。許諾料はケースバイケースで、特許は有効期限があるため、どちらが費用がかかるか一概には答えにくいところもありますが、評価にかかる費用が大きいので、ゲノム編集のほうが費用がかからないと考えられていると思います。
【 質問4 】
ゲノム編集の収率・歩留まりはどの程度なのでしょうか? 目的箇所での切断、目的外での切断、再結合の正確さいろいろありますが、大まかで結構です。ゲノム編集がうまくいったかどうかの判断は、栽培してからと、遺伝子分析でわかると思いますが、それ以前に実験中に判断できることはあるのでしょうか?
【 回答4 】
ゲノム編集が計画通り行われたかどうかは、栽培しなくても標的遺伝子領域の塩基配列を解析することによって確認することができます。また意図しない変異が導入されていないか確認することもできます。しかし、変異を導入した結果、期待する形質が見られるかどうかは、栽培しないとわからない場合もあります。
【 質問5 】
遺伝子組み換えが暴走して人に害を与えるとんでもないものが出来ることは無いのですか?
【 回答5 】
例えば繁殖力を向上させた結果雑草化しないか、といった懸念もあるかもしれませんが、それは従来の育種でも同じです。育種は変異の導入と選抜という過程で行われるので、人にとって有害な植物がもし作られても、それらは選抜過程の評価により除去されます。したがってご心配される問題が生じることは無いと思います。
【 質問6 】
ゲノム編集した植物は継代可能なのでしょうか。その都度編集したものを導入しなければ(例えば作物なら)収穫できないのでしょうか。継代が可能だった場合、何代まで形質発現は可能なのでしょうか。また、継代していった場合、編集箇所に突然変異は生じる得るのでしょうか。
【 回答6 】
ゲノム編集で育成した植物は、これまでの従来育種で育成した植物と全く同じように扱うことが出来ます。ゲノム編集した植物は継代可能です。継代していく間に編集箇所に突然変異が生じる可能性はありますが、その確率は基本的には編集していない領域における突然変異率と変わらないと思います。
【 質問7 】
植物の分野では遺伝子の改変が進んでいるということですね?動物はどうですか?豚や牛などの家畜のゲノム編集は進んでいるのでしょうか?
【 回答7 】
家畜のゲノム編集については詳しく無いのですが、例えば、ニワトリのゲノム編集により卵アレルギーに関わるタンパク質の遺伝子を編集する試み等が行われています。
【 質問8 】
人工ヌクレアーゼ導入による切断が従来の遺伝子改変とどう違うのか、また植物を改良するのではなく必要な栄養素、タンパク質、炭水化物などを含んだ人工食物が作れば食料の絶対量が確保できるのではないかと思いました。
【 回答8 】
従来の遺伝子改変とどう違うかについては、上記の回答を見てください。植物は無機塩と水と光、空気があれば必要な栄養素、タンパク質、炭水化物すべてを自前で作ることが出来ます。遠い将来はわかりませんが、植物の育種を発展させ、より生産性が高く環境にも負荷をかけない農業を行うことが食糧確保のための現実的な解決方法ではないかと思います。