[第3シリーズ] 第2回
「バイオテクノロジーで変わる私たちの衣食住」Q & A
回答者:佐藤和広先生
【 質問1 】
不耕起栽培出来る種類はどんな遺伝子改変がなされているのか、現在減少している農業の担い手の補助になるのか、耕作放棄地で簡単に牧草などが栽培できないのか、など知りたい。
【 回答1 】
現在米国等で使用されている作物の遺伝子改変は除草剤耐性で、ラウンドアップなどの非選択性(どんな植物も枯死させる)除草剤に耐性の作物を育成して、作物の栽培時に除草剤を散布することで雑草を防除します。耕作放棄地等でも除草剤耐性作物が栽培できれば作物栽培は可能かもしれません。
【 質問2 】
動物細胞に比べて、植物細胞の融合は比較的容易に行えるようですが、それは免疫機能の有無に由来するものでしょうか? あるいは他にも何か原因があるのでしょうか?
【 回答2 】
植物細胞は細胞壁があるので、そのまま融合することはできず、細胞壁を酵素で消化することでプロトプラストという細胞を作成します。プロトプラスト同士で細胞融合は可能ですが、融合した細胞から植物体を再生することに、多くの困難が生じますので、雑種植物ができた例は多くありません。動物の免疫機能に相当するのは雑種に使う植物の親和性の違いになるかと思いますが、細胞融合の雑種は近縁の植物間でしか育成されていないようです。
【 質問3 】
田畑先生のご質問にあったように、遺伝子組み換え作物については、食品の成分表に記載されるなど、消費者にとってはどちらかといえば避けたいと思わせる風潮があります。有機栽培との情報混濁や、感覚的な忌避感の伝播も深刻なように思われます。従来の品種改良より厳密に管理されたゲノム編集作物に対しては、消費者への正確でわかりやすい啓発が必要だと感じています。研究者側では、科学的素養のない一般消費者への啓発として、どのような活動が有効だと感じておられますか。また、既に行われている活動があればご教示いただけれは幸いです。
【 回答3 】
ご質問ありがとうございます。今回の講演もまさに、消費者へのわかりやすい情報提供の一環と考えています。研究者や企業は開発した作物の良い面だけを強調しがちですが、今回の講演は遺伝子組換えやゲノム編集を中立的に説明したつもりです。たとえば農林水産省所管の国立研究開発法人においても、国産の組換え作物やゲノム編集作物についての理解を深めるための広報活動を実施していますが、実際には国内で栽培されている遺伝子組換えやゲノム編集作物はほとんどないので、これらの技術に興味も必要性も感じないという方がほとんどではないかと思います。しかし、現在の私たちの生活は家畜の飼料や衣類に用いる綿など遺伝子組換え作物がなくては成り立たなくなっていますし、遺伝子組換えによる生産物と非組換え生産物を分けて保存、流通するのに多額の費用がかかっており、これをなくせば生産物の価格がより安くなることも理解すべきです。少なくとも所轄官庁で利用が許可された遺伝子組換え作物やゲノム編集作物は、利用上問題となるような欠点はみあたらないので、それを利用するメリットとデメリットを先入観なく議論して、メリットがある場合は使用することを決定するのがよいと思います。その議論の場をどこにするのかが問題なのですが、例えばスウェーデンでは国会で組換え作物の栽培の是非が議論されていると聞いています。その背景には、国内およびEU内の種苗産業の衰退や植物研究者の海外流出などの深刻な事情があります。現在の日本社会は、これらの作物の利用に対しては無関心で、あえて問われれば使わないほうが無難だという風潮があるようです。一部の根強い反対意見があることから、不買運動などを恐れた企業などが、あえてリスクをおかしてまで利用しないため、普及もしない状況だといえます。
【 質問4 】
普段スーパーで販売している輸入トウモロコシや輸入ダイズは、ほとんどが遺伝子組み換え植物になっているということでしょうか。
【 回答4 】
国内では遺伝子組換えの生食用トウモロコシやダイズが栽培されていないので、これらがスーパー等で販売される例はほとんどないと思います。しかし、輸入トウモロコシや輸入ダイズが使われる可能性が高い加工食品では、消費者庁の遺伝子組換え表示制度によって表示義務が定められています。表示方法には(遺伝子組換え)および(遺伝子組換え不分別)などと表示されており、分別生産流通管理をした場合には(遺伝子組換えでない)、混入を5%以下に抑えている場合は(遺伝子組換え混入防止管理済)などと表示されます。これらの分別生産流通管理および表示には多額のコストがかかっています。消費量でみると、遺伝子組換えのトウモロコシやダイズの多くは飼料として使われますので、我々はこれらを肉や卵として消費しています。
【 質問5 】
ゲノム編集は比較的簡単に編集できるように聞こえますが、実際の収率とか、編集作業の期間・工程はかなりかかるのではないでしょうか? 交配して作物を作って確認するよりは各段早いとは思いますが。
【 回答5 】
植物の種類にもよりますが、遺伝子組換えやゲノム編集で作業効率の良い品種は限られています。たとえば、コムギのゲノム編集には米国の1品種以外はほとんど使われていません。この場合、ゲノム編集植物に他の品種を交配して、改変した変異を他の品種に導入する作業が必要となるので年単位の追加の時間が必要になります。それでも、いくつかの遺伝子を同時に改変することや、改変の効果を確認することが可能なので、ゲノム編集を使うメリットは十分あると考えられます。
【 質問6 】
ゲノム編集技術についてです。CRISPER/Cas9で切断される場所は、ガイドRNAで特定される20塩基の配列内と理解したらよろしいでしょうか。切る場所(位置)までは特定できないのでしょうか。
遺伝子組換え作物(GM作物)についてです。商業的に栽培されているGM作物に導入された特徴の内、除草剤耐性と耐虫性以外のものを教えてください。また、なぜこの2つの特徴が主だったものになったのか、解説いただけると幸いです。
遺伝子組換え作物(GM作物)についてです。商業的に栽培されているGM作物に導入された特徴の内、除草剤耐性と耐虫性以外のものを教えてください。また、なぜこの2つの特徴が主だったものになったのか、解説いただけると幸いです。
【 回答6 】
結論からするとガイドRNAの中の塩基に限定され、位置の特定はできません。CRISPR/Cas9は、ガイドRNAによってDNAの場所を特定し、Cas9によってDNAを切断します。このガイドRNAとCas9の複合体は、DNA上を移動して、ガイドRNAの持つ端の20個の配列がDNAの配列と一致したところで、両方のDNAの鎖を切断します。通常、切断されたDNAは修復されて元に戻りますが、同じ配列が残っている限りCRISPR/Cas9によってまた切断されます。何度も切断と修復を繰り返しているうちに、まれに修復の誤りが起きて、配列が変わることがあります。配列が変わるとそこはもう切断されなくなりますので、変異となって残ります。これが配列内のどこに起きるのか、どのような変異なのか、欠失なのか挿入なのか、どれくらいの塩基数で変異が入るのかはコントロールできません。
1994年に初めて市販された遺伝子組換え作物は、熟しても実がつぶれにくいフレーバーセイバートマトで、熟しても果皮や果肉が柔らかくなりにくく長く風味を保つという特徴があります。また、動脈硬化を予防するために重要な一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が85%程度(通常20%)に増やした遺伝子組換えダイズが作られています。花の育種では青い色のなかったカーネーションやバラで遺伝子組み換えによる青い花の品種が育成されています。除草剤耐性と耐虫性はそもそも農業的な効果が非常に大きかったことに加えて、開発したのが化学系の大企業で、農薬と組み合わせた販売や、農薬に代わる品種の提供などの販売戦略と合致していたことも影響したと考えられます。
1994年に初めて市販された遺伝子組換え作物は、熟しても実がつぶれにくいフレーバーセイバートマトで、熟しても果皮や果肉が柔らかくなりにくく長く風味を保つという特徴があります。また、動脈硬化を予防するために重要な一価不飽和脂肪酸のオレイン酸が85%程度(通常20%)に増やした遺伝子組換えダイズが作られています。花の育種では青い色のなかったカーネーションやバラで遺伝子組み換えによる青い花の品種が育成されています。除草剤耐性と耐虫性はそもそも農業的な効果が非常に大きかったことに加えて、開発したのが化学系の大企業で、農薬と組み合わせた販売や、農薬に代わる品種の提供などの販売戦略と合致していたことも影響したと考えられます。