[第3シリーズ] 第3回

「新しい色の花を作る」Q & A

回答者:田中良和先生

【 質問1 】
 野生種との交雑について、遺伝子組み換えで導入した遺伝子が生殖細胞には含まれないため交雑しないとの説明であったかと思います。これは①元々の育成が刺し木や継ぎ木で増やすため、②当代での色素の発現優先でその形質を子孫に残す優先度が低い、などの理由が考えられるかなと思うのですが、③認可を見据えて生殖細胞には入らない組み換えを計画する、という事情もあるでしょうか?
【 回答1 】
 遺伝子組換え作物を生産、販売する認可を得るためには生物多様性に影響を及ぼすことがなさそうということを示す必要があります。特に導入遺伝子が野生植物に広がらないこと、広がっても生物多様性に影響しないことを示す必要があります。多くの作物は品種改良の結果、様々な理由から野生種とは交配しにくい(子孫を残しにくい、例:ダイズとその野生種ツルマメの場合)。詳細は、バイオセフティークリアリングハウス(日本版バイオセーフティクリアリングハウス(J-BCH))で「LMO検索」で検索して各作物の申請書類で読むことができます。
 ダイズやイネの場合は種子を利用しますので導入した遺伝子は子孫に伝わります。花の場合は、バラ、カーネーション、キクなど栄養増殖(差し芽、挿し木)で増やしますので、導入遺伝子が子孫に伝わるかどうかを考慮する必要はありません。
 日本で販売しているバラ(商品名アプローズ)につきましては、お話ししましたように花色を青くする遺伝子は生殖細胞には含まれませんので、原理的に子孫には伝わりません。カーネーション(ムーンダスト)につきましては、このカーネーションには花粉がないか、あっても活性のない花粉であることから、自然界には広がりません。また、国内に交配可能な植物がない場合は認可を取得しやすいはずです。
【 質問2 】
 野に咲く、忘れな草や露草を「青」とイメージすることが私は多く、園芸品種の青は濃いものでも赤みを持つ紫だという印象が強い為、忘れな草や露草の青が、今回のお話しには出てこないのは、どうしてかなと思いました。色素が違うとか、対象として使いづらいのか何か理由があったら教えて欲しいです。
【 回答2 】
 ツユクサの青い色素(コンメリニン)についてはよく調べられていて、複雑系科学専攻・吉田研究室|研究室探訪|名古屋大学院 情報科学研究科 Webニュース|名古屋大学院 情報科学研究科 Webニュースの中央あたりに簡略化した図があります。6分子のアントシアニン(デルフィニジンの誘導体)と6分子のフラボンと2個のマグネシウムイオンが複合体となって、安定な青を発色しています。これをバラの中で再現するには多くの遺伝子(未知の遺伝子含む)をバラで働かせる必要があり、難しすぎます。忘れな草については詳しく調べられていないと思います。青い花については(独)農研機構のページも有用です。野菜花き研究部門:青色 | 農研機構
【 質問3 】
 薔薇は4媒体との話でしたが、4媒体の場合2媒体のペアが2つはいるのでしょうか?その場合、2媒体のペア同士は全く同じでしょうか?それとも異なるのでしょうか?
【 回答3 】
 栽培バラは一般に4倍体、その親になった野生バラは2倍体とされています。何百年も人為交配も含め交配されてきましたので、栽培バラの染色体はいろいろな野生バラが混じったものになっている(染色体が組換わっている)と思います。品種によって異なる野生バラ由来の異なる部分が入っているはずです。野生バラのゲノムもいくつか解読されていますので、栽培バラの染色体のどの部分がどの野生バラに由来するか調べることもできるでしょう。
【 質問4 】
 最後にゲノム編集という語彙が出てきたが、遺伝子がどこに入るか分からないというような問題はゲノム編集で解決できるのではないかと思った。サントリーでは試みられてないのでしょうか?
【 回答4 】
 ゲノム編集あるいはジーンターゲティングの手法で、植物の染色体上の特定の個所に外来遺伝子を入れることが、一部の植物では可能です。バラやカーネーションではまだ難しいですし、その手法を開発するのも大変なので、以前からの手法で遺伝子組換えをしています。
【 質問5 】
 現在その他の開発中の植物にはどんなものがありますか?
【 回答5 】
 バイテク情報普及会のホームページにリスト(国内国外開発済み)が掲載されています。広く利用されている性質は、除草剤抵抗性と害虫抵抗性です。長年研究しても実用化されているものは少ないです。
【 質問6 】
 「遺伝子をいれる」という表現がありましたが、どのような方法でいれるのか興味があります。制限酵素などを使って、遺伝子を切りばりしていれるのでしょうか。
【 回答6 】
 「遺伝子組換え農作物・ハンドブック」が生物機能利用研究部門:遺伝子組換え関連情報 | 農研機構に掲載されています。その中に生物機能利用研究部門:QI- 6 遺伝子組換え農作物はどうやって作るのですか? | 生物機能利用研究部門がありますので参照ください。お話ししたバラやカーネーションもアグロバクテリウムを利用して遺伝子を導入しました。制限酵素はアグロバクテリウムに導入する遺伝子をつなぐ時などによく使用します。
【 質問7 】
 同じ花を見ても、人が認識している色と昆虫が認識する色の違いがありますが、バイオテクノロジーで作成をした花の元との変化はありますか?あくまでの人が見た色だけの変異でしょうか。またそれにより、主によってくる昆虫への変異はおきますか。
【 回答7 】
 成分が変化していますので虫が見える色も変わっていると思われますが、観察した限りでは花にやってくる昆虫に差は見られませんでした。実際には温室の中で生産しますのでほとんど虫は来ません。
【 質問8 】
 ゲノム編集は最近話題になっていますが、植物のカルチャーで遺伝子を変えるというところがよくわかりませんでした。
【 回答8 】
 「カルチャー」というのはtissue culture(組織培養、試験管などの中で無菌的に植物を育てる)のことだとしてお返事します。通常は、組織培養した植物の一部に遺伝子を入れる操作をします(上のアグロバクテリウムを使う)。遺伝子が入るのは1個の細胞で、これを試験管の中で増やしていきます。上の回答も参照ください。ゲノム編集は、実験手法としては遺伝子組換えの手順を経ます。
【 質問9 】
 日本では白い花が1番多いという話題がありましたが、南国ないし南半球では赤や黄色のはっきりした花の色が多い印象があります。土地によって咲く花の色の違いがあるのは虫が認識しやすい色ということ以外にも理由はあるのでしょうか?
【 回答9 】
 植物にとっては自分の置かれた環境で、できるだけたくさんの子孫を残せるような花を咲かせていると思います。花色もその工夫の一つです。熱帯ではハチドリも花粉を運びますので、鳥の好む赤い花が多いと言われます(合わせてハチドリが蜜を吸いやすい形態に変化しています)。他の植物との競争のために目立つような色を咲かせるのかもしれません。
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