- DNA
ディーエヌエー
- アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種類の化合物(塩基)が並んだ繊維状の高分子で、デオキシリボ核酸の略称です。塩基の「並び」(塩基配列)のなかに、親と同じものを作る遺伝情報が符号化されています。これは、ちょうどコンピュータの磁気テープに例えることができます。このテープには主として、生物がつくっているタンパク質の設計図の符号(遺伝子)と、どのタンパク質を、いつ、どこで、どれだけ作るか、を指令する符号(発現制御の情報)が並んでいます。ヒトのDNAでは、塩基の数は約30億個にも達し、このような長いDNAが1つ1つの細胞の中に折り畳まれているのです。親と同じものを作る遺伝子情報を全部持ったDNAを「ゲノムDNA」と呼びます。
- 遺伝情報
イデンジョウホウ
- 生物が自己と同じ物を複製するために、細胞から細胞へ、親から子へ伝えている情報で、DNAの塩基配列に符号化されています。生物はそれぞれ、数千種類から数万種類のタンパク質で作られています。ヒトでは約2万種類といわれていますが、正確な数はわかりません。遺伝情報の中身は、主として、これらタンパク質をつくるための情報(タンパク質の設計図)と、どのタンパク質を、いつ、どこで、どれだけ作るかという発現制御の情報から成り立っています。生物は、タンパク質の他に、炭水化物、脂肪など、たくさんの物質からできていますが、これらの物質は、素材からタンパク質(酵素)によって合成されるので、本質的には、炭水化物、脂肪などの合成に係わるタンパク質をつくる設計図があればよいこととなります。
- RNA
アールエヌエー
- RNA は、DNA と同じくヌクレオチドが重合した高分子で、ヌクレオチドを構成する糖の構造が DNA と少し異なり、「リボ核酸」と呼ばれます。RNA の塩基の部分は、アデニン(A)、ウラシル(U)、グアニン(G)、シトシン(C) の4つの種類があり、ウラシルは DNA のチミンに対応します。RNA には、DNA から転写されタンパク質合成の鋳型となるメッセンジャー RNA (mRNA)、mRNA を鋳型にしてタンパク質をつくるためのアミノ酸を運ぶトランスファー RNA (tRNA)、mRNA からタンパク質を翻訳するときに必要なリボソームの一部を構成するリボソーム RNA (rRNA) のほか、タンパク質をコードしない RNA(ノンコーディング RNA (ncRNA))などがあります。.
- ゲノム
ゲノム
- 細胞の中にあるDNAの基本セットをゲノムと呼びます。生物の種類によって、ゲノムを構成するDNAの長さや塩基配列が異なります。ゲノムには遺伝のもととなる情報が書かれていて、同じ性質を親から子へ細胞から細胞へと伝えていく役割をもっています。親と子や、同じ種類の生物が似ているというのはこのためです。 DNA の塩基配列の中に「遺伝子」と呼ばれる領域があり、その情報をもとに細胞内でさまざまな働きをするタンパク質を合成することができます。生物が生きるためには、このタンパク質の働きが重要です。これらのタンパク質を「いつ、どこで、どれだけ」合成するかの情報も DNA の中に暗号化されているので、ゲノムは「生命の設計図」と呼ばれます。
- 遺伝子
イデンシ
- DNA上の「一つのタンパク質の設計図」に相当する部分を「遺伝子」とよんでいます。ヒトのDNAには、約2万種類の遺伝子が並んでいることになり、そのなかには臓器や血液など「からだ」を造っているタンパク質の遺伝子をはじめ、疾病や老化に係わる遺伝子、免疫や記憶に係わる遺伝子、さらにはDNAに書かれた符号を解読する装置の遺伝子などが含まれています。最近は植物の遺伝子の研究も盛んで、植物の茎の太さや高さ、種子の大きさや数、温度や乾燥、薬剤への抵抗性なども、遺伝子によって決まっていることが明らかになってきました。
- オミックス解析
オミックスカイセキ
- ゲノム(genome)は、遺伝子(gene)と総体を意味する(ome)を合わせた造語で、遺伝子の総体を表わします。細胞の中で合成されるmRNA(転写物)、タンパク質や代謝物質を網羅的に調べようとする研究手法が開発され、ゲノムにならい、転写物(トランスクリプト)、タンパク質(プロテイン)や代謝物質(メタボライト)の総体を、それぞれトランスクリプトーム、プロテオームやメタボロームなどと呼び、その学問をそれぞれ、トランスクリプトミクス、プロテオミクスやメタボロミクスなどと言います。このような生体物質の総体を分子レベルで網羅的に解析することを総称してオミックス(Omics)解析と呼びます。
- 希少難病
キショウナンビョウ
- 患者数の少ない疾患を総称して、希少疾患や希少難病と呼びます。昭和47年に厚生省が示した難病対策要綱の中では、「原因不明、治療方法未確立であり、かつ、後遺症を残すおそれが少なくない疾病で、経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護などに著しく人手を要するため家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病」を難病としてますが、このうち、患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%)に達しないことや、客観的な診断基準が確立しているという要件を満たすものを特に「指定難病」として、医療費助成の対象としています。希少難病は、原因となる遺伝子が特定されたものも多く、いくつかについては遺伝学的検査が可能で、指定難病は平成29年4月時点で330疾患あります。
- 質量分析
シツリョウブンセキ
- 分子の質量を測定する分析手法。分子をイオン化して質量と電荷の比であるm/zを測定します。また、イオン化した分子にエネルギーを与え分子内の結合を切断することで、分子の部分構造の質量の情報を得ることも出来ます。 測定精度は目的に応じてさまざまですが、最も精度が高い質量分析では測定誤差が分子の理論質量の100万分の1程度となる精密な質量分析が可能です。
- DNAシークエンサー
ディーエヌエー シークエンサー
- DNAシークエンシングとは、DNAの塩基配列を決定することですが、塩基配列を解読する手法は、1977年にウォルター・ギルバートやフレデリック・サンガーなどによって異なる原理で発表されました。1990年半ばにゲノム解読が盛んになってきたころには、このサンガー法を改良し半自動的にDNAの塩基配列を解析するための装置(DNAシークエンサー)が開発されていました。その後、解析に必要なDNAの標識法がラジオアイソトープから蛍光色素に代わり、解析効率だけでなく、安全性も高まりました。現在では、「より速く、より多く、より安く」塩基配列を決定するための新しい技術を用いたDNAシークエンサーが次々と開発され、13年かかったヒトゲノムの解析は、今や2週間もかかりません。
- 塩基配列
エンキハイレツ
- DNAやRNAなどの核酸は、ヌクレオチドが直鎖状に並んだ高分子ですが、ヌクレオチドに結合している塩基は、DNAではアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類で、RNAではチミン(T)の代わりにウラシル(U)となります。このヌクレオチドの並び方を示したものを塩基配列と呼びます。DNAは二重らせん構造をしていますが、向かい合うDNA鎖は、Gに対してCが、Aに対してTが水素結合で結合することから、一方のDNA鎖の塩基配列が決まれば、向かい合う相補的なDNA鎖の配列も自ずと決まります。このようなことからDNAでは一方の塩基配列だけを示す場合が多いのです。ヌクレオチドがつながって高分子になるときには方向性(リボースの炭素の位置から5’側と3’側の方向性をもつ)があるので、塩基配列は5’側から3’側に向かって示します。
- メタボローム解析
メタボローム カイセキ
- 生物の生命活動で変化する細胞内の代謝物の種類や濃度の全ての情報を、まとめてメタボローム(Metabolome)と呼びます。メタボローム解析は、代謝物の分離装置や質量の測定装置などを用いてメタボロームの情報を網羅的に解析する手法です。
- 核磁気共鳴
カクジキキョウメイ
- 分子の構造に関する情報を得るための分析手法の1つです。高い磁場の中では分子を構成する原子の原子核と磁場が共鳴現象を起こします。この共鳴現象の周波数が原子の結合状態によって変化することを応用して、原子と原子のつながりかた、すなわち分子の構造を明らかにするための分析手法として利用されています。
- 液体クロマトグラフ
エキタイ クロマトグラフ
- 生体物質を相互に分離するための装置の1つです。カラムと呼ばれる円筒型の管にシリカゲルなどの固体(固定相)をつめ、そこに試料と水や有機溶媒などの溶液(移動相)を流すことで、物質それぞれで異なる固定相と移動相との相互作用の強さによって物質を分離することが出来ます。一般的には分離した物質の検出器があり、紫外線吸収などを利用して分離された物質を検出し定量的な測定結果を得ます。この検出器に質量分析計を用いた装置は、とくに「液体クロマトグラフ-質量分析装置(LC-MS)」と呼ばれます。
- ガスクロマトグラフ
ガスクロマトグラフ
- 物質を分離するための装置の1つです。カラムと呼ばれる円筒形の管にポリエチレングリコールなどの担体(固定相)を充填あるいは塗布し、そこに気体試料とヘリウムなどのガス(移動相)を流すことで物質それぞれで異なる固定相と移動相との相互作用の強さや沸点によって物質を分離することが出来ます。一般的には物質の検出器があり、熱伝導度などを利用して分離した物質を検出し定量的な測定結果を得ます。この検出器に質量分析計を用いた装置は、とくに「ガスクロマトグラフ-質量分析装置(GC-MS)」と呼ばれます。
- ノンターゲット解析
ノンターゲット カイセキ
- 質量分析を行う際、特定の物質ではなく、検出された物質全てのシグナルを解析対象とする手法です。予め決められた既知物質の定量解析と比較して精度は下がりますが、未知物質まで含めた網羅性の高い解析ができることが特徴です。そのため、新たなバイオマーカーや代謝物の発見、食品など多くの成分からなる場合の相互比較や評価に役立っています。
- クロマチン
クロマチン
- 直径0.02mmのヒト細胞の核に詰め込まれているDNAの長さは約2mにもなります。動物や植物、酵母などの真核生物では、長大なDNAを小さな核の中に縺れることなく収納するために、ヒストンと呼ばれるタンパク質が重要な役割を担っています。約200塩基対を単位にDNAがヒストンに2回巻き付いてビーズ状になったものを「クロマチン(染色糸)」と言います。クロマチン/染色糸という呼び方は、色素によく染まることから名付けられました。「遺伝子が発現」すること(ONの状態)と発現が抑制されること(OFFの状態)とクロマチンの構造には密接な関係があることがわかってきました。
- 染色体
センショクタイ
- 1本のDNAは2本の鎖がより合わさってできていますが、細胞が分裂する前に2本の鎖がほぐれて、それぞれを鋳型に新しい鎖が合成されて2本のDNAに複製されます。複製されたDNAは、細胞分裂期になると高度に折り畳まれて「染色体(クロモソーム)」となります。裸のDNAから比べると、「クロマチン」として巻き取られ、さらに折り畳まれて染色体となったときの長さは約1万分の1です。2mのヒトDNAは染色体になると0.2mmの長さになります。ヒトの染色体は46本に分かれており、一番長い1番染色体は約0.008mmの長さに折り畳まれます。このように分裂期にコンパクトな染色体の構造が出来上がることは、「染色体の分配」が正しく行われ、遺伝情報が子孫の細胞に正確に受け渡されるために必要です。
- 染色体分配
センショクタイ ブンパイ
- 染色体は複製された2本のDNA(染色分体)がセントロメアと呼ばれる領域で接着しています。それぞれの染色分体のセントロメア上には、多種類のタンパク質が集合してできた動原体と呼ばれる構造が形成され、その動原体は染色分体をつかむ取っ手の役割をします。タンパク質でできた糸が動原体に結合し分裂軸の両極に引っ張られることで染色分体(複製されたDNA)は均等に分配されます。46本の染色体セット(ヒトの場合)で同時に2つの娘細胞へ「染色体分配」が起こることで遺伝情報が正しく受け継がれます。セントロメアは、染色体分配における接着と取っ手という全遺伝情報を娘細胞に正しく伝えるための特別な機能を担うDNA領域です。
- 遺伝子発現
イデンシハツゲン
- 「遺伝子の機能が発現」すること、すなわちDNAの塩基配列情報に基づいたアミノ酸配列を持つタンパク質が合成されるためには、まずDNAの2本鎖の片方の鎖を鋳型としたmRNA合成(=転写)が起きなければなりません。真核生物ではDNAがヒストンに巻き付いた「クロマチン」という形で細胞核内に収納されているので、まずクロマチンを緩める(開く)必要があります。クロマチンには転写に際して開きやすいクロマチン(ONの状態)と開きにくいクロマチン(閉じたOFFの状態)とがあります。この違いは、ヒストンタンパク質に対する多様な化学修飾でヒストンの性質が変わることで生じます。
- 合成DNA
ゴウセイ ディーエヌエー
- DNAは巨大な分子ですが、炭素・水素・窒素・酸素・リンという限られた元素からなる化合物です。近年、DNAを化学合成する技術が向上し、遺伝子1個分に相当する数千塩基のDNAも合成ができるようになりました。化学合成したDNAも生物に導入すれば生物が元々持っているDNAと変わらず機能します。さらに生物が元々持っている遺伝子よりももっと都合の良い性質を与えるようにDNA配列をデザインして、生物に導入して発現させることも可能になりました。このような合成DNA技術を駆使して生物を作り変える「合成生物学」の研究分野も発展してきました。