こんにちは。ジェームズ・ダーネルです。私は化学信号がどうやって、真核生物の遺伝子の発現をオン/オフするのか興味があります。 多細胞生物は、単細胞生物のように、環境の変化に応答します。多細胞生物の細胞もまた、成長や分化を調整するために、お互いに”話す“必要があるのです。 細胞は化学信号でやりとりをします。受容体はその信号を受け取り、メッセージを一連の細胞内の分子に渡すのです。 タンパク質合成を促すメッセージは中継されて核やDNAに伝わります。 [遺伝子Aをオンにせよ] メッセージはその流れの中で様々な形をとるので、私たちはこの伝達を“シグナル伝達”と呼んでいます。 インターフェロンは、動物細胞のコミュニケーションで使われる多くの伝達物質のうちのひとつです。 RNAウイルスに感染した細胞は、近隣の未感染細胞の受容体に化学物質を放出します。インターフェロンは、ウイルスの攻撃に備えて、未感染細胞に防御のタンパク質を作るよう指示します。 私たちはどうやって、この伝達が開始されるのかを明らかにしました。まず、未感染細胞の受容体にインターフェロンが結合します。 [インターフェロン受容体] [細胞膜] [核] インターフェロン受容体は2つのサブユニットから成り立っています。インターフェロンが結合したときに、2つの部品は一緒になります。 [インターフェロン] すると、インターフェロン受容体は自身のサブユニットに結合した2つのJAK(ヤヌスキナーゼ)という分子を活性化します。 活性化はリン酸化で行われます。JAKや他の酵素は、特定のアミノ酸にリン酸基がつくことで活性化の状態になります。リン酸は酵素の形を変え、その活性を変化させます。 ここで、経路が分からなくなりました。私たちはそのメッセージを核内に伝える他の分子を捜しました。 インターフェロンは特定のタンパク質の合成を起こすので、この経路の最終分子はその細胞のDNAに到達して、転写を活性化しなければなりません。まず、それを捜すことにしました。 転写の活性化因子は、通常は、発現を誘導する遺伝子の上流、すなわち5’側にあるエンハンサーと呼ばれる調節配列に結合します。私たちは、インターフェロン経路の転写活性化因子を、そのエンハンサーDNA配列を同定することによって発見しました。 まず、我々はインターフェロンで発現が誘導される遺伝子を捜し、その上流部分のDNA断片を単離しました。 [インターフェロン誘導遺伝子] [エンハンサー断片] 私たちは、このDNA断片のコピーを多く作り、末端を放射性標識しました。 そして、エンハンサーDNA断片を、インターフェロン処理した細胞から抽出した核タンパク質と混ぜ合わせたのです。このタンパク質抽出液の中に、私たちのまだ見ぬ転写活性化因子の姿があったのです。 [ +インターフェロン] 比較のために、私たちはそのエンハンサーDNA断片を、インターフェロン処理していない細胞の核から取り出した抽出液とも混ぜ合わせました。この中には転写活性化因子はありませんでした。 [未処理] インキュベーションしている間に、インターフェロン処理した細胞からの転写活性化因子はエンハンサーDNA断片と結合しました。 それから、少量のDNA分解酵素をそれぞれのチューブに加えました。低濃度ではDNA分解酵素はそれぞれのDNA断片を一回だけ無秩序に切断します。 しかし、タンパク質が結合したエンハンサー配列は、その切断から守られました。 未処理の細胞から取り出した抽出液の方には、結合タンパク質が無いので、DNA分解酵素は、いろいろな場所を切断しました。結果、いろいろな長さに切断されたDNA断片の集まりができました。 それぞれのサンプルをDNAの塩基配列を調べる時に使用する、アクリルアミドゲルで電気泳動しました。DNA断片はその長さに従って、大きいものが上に、小さいものが下に、分けられます。 [マーカー色素] それでは、インターフェロン処理していない細胞の結果を見てみましょう。私たちは事前にこのDNA断片の塩基配列を調べていますので、どのバンドが、どの塩基に相当するかを知っていました。 それぞれのバンドは、ひとつの大きさを表します。全ての断片がここにあります。それぞれのバンドはエンハンサー配列中の塩基を示しています。 一方、インターフェロン処理した方では、いくつかのバンドが消えてしまっています。これらの塩基は、転写活性化因子の結合によって、(DNA分解酵素から)守られているのです。 結合部位の塩基配列を明らかにするために、穴の部分に相当するDNA配列を読みますーTCACTTT。これが、転写活性化因子結合部位の”フットプリント(足跡)“なのです。 思い出して下さい、私たちは転写の活性化を導くタンパク質を捜そうとしていました。今、手元にその結合配列があるので、それをつり上げるために別の放射活性のあるプローブを作りました。 そのDNAプローブを再度、インターフェロンを処理した、あるいはしていない細胞由来の核抽出液と混ぜ合わせました。前と同じように、そのプローブは、インターフェロン処理した細胞にあるタンパク質の複合体に結合しました。 私たちは、プローブに結合するタンパク質を拾い出し、それらが核の中で転写を促進するだけでなく、受容体から核に情報を運んでくるという、2つの役割を持つことを発見したのです。 それでは、受容体に戻りましょう。インターフェロンの結合は、JAKを活性化することを思い出して下さい。同様に、JAKは私たちがフットプリントで発見した3つのタンパク質のうちの2つを活性化します。活性化の後に、これらSTATs(シグナル伝達兼転写活性化因子)と呼ばれる分子は、p48と呼ばれる3番目の分子と結合します。 これらの複合体は核の中に移行し、エンハンサー配列に結合します。そして遺伝子の転写を活性化するのです。 この遺伝子から作り出される酵素は2’,5’オリゴアデニル酸(2-5 A)合成酵素と呼ばれています。 レトロウイルスが細胞内に侵入すると、2-5 A合成酵素は二本鎖のウイルスRNAによって活性化されます。合成された2-5 Aは、2つの部品の二量体化によりRNA分解酵素を活性化し、RNA分解酵素の二量体がウイルスのRNAを分解します。 このインターフェロンの経路は、これまでに見つかった、真核生物の遺伝子活性化の最も簡単な例です。ホルモンや増殖因子によって引き起こされる他の真核生物の経路はより間接的で、多くの仲介因子を利用します。
インターフェロンは細菌やがんのような他の細胞からも、私たちの体を守ります。
どのようにしてインターフェロンはがん治療に使われるのでしょうか?