かずさ・千葉エリア「平成22年度産学官連携交流会」報告

日 時: 平成22年9月29日 (水) 13:30〜18:45
会 場: かずさアカデミアホール202B
 
基調講演: 「今後の地域科学技術施策について」 
  文部科学省科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付 寺坂 公佑 様
 我が国の置かれている経済状況、主要国の科学技術政策、国際競争力等の観点から、地域科学技術の振興は必須である。政府は、昨年12月に「新成長戦略」として、科学・技術立国戦略を掲げ、地域イノベーションシステムの強化は、研究開発システムの強化の重要な柱の一つに位置付けた。今後の地域科学技術振興施策の方向性としては、関係府省間の壁を取り払い、地域の主体的な取組みを促す環境を整備し、地域の「知」の拠点である大学等における、人材育成や知的資産の活用等の地域貢献機能を強化すること、また、地域の特色を活かしつつ、研究開発から技術実証、社会還元までを一貫して行うシステムを構築することなどが必要である。
1. 学術講演: 「IgEによる即時型アレルギー反応を抑制する免疫グロブリン様受容体アラジン1(Allergin-1)」
  筑波大学大学院 人間総合科学研究科 生命システム医学専攻 
  免疫制御医学分野 教授 渋谷 彰 様
 T細胞、B細胞、NK細胞の各々が暴走を抑える受容体があると考え、細胞質領域にImmunoreceptor Tyrosine-based Inhibitory Motif (ITIM)を有する新規の抑制性受容体をシグナルシークエンストラップ法を用いてクローニングし、Allergy Inhibitory Receptor (Allergin)-1 を同定した。アラジン−1はMast cellの脱顆粒を特異的に抑制すること、即時型アレルギー反応のみでなく遅発性のアレルギー反応にも関与することが解った。アラジン-1は、免疫系に影響を及ぼすことなく、Mast cellの脱顆粒を特異的に抑制することより、副作用の少ない新しい抗アレルギー薬に成り得る可能性を示唆させていた。
【研究テーマ紹介】 演題1:「合成樹脂製血球分離チップの作製と表面親水化処理技術について」
  早稲田大学 ナノテクノロジー研究所 准教授 水野 潤
 プラスチック材料は安価で大量生産できることより、ディスポーザルの器具として微小化学分析システム(micro-TAS)の分野でも応用が待望されている。しかしながら、合成樹脂表面に血球成分が吸着し、流路として使えなかった。メタクリル樹脂(PMMA)やシクロオレフィン樹脂(COP)などの合成樹脂を材料とした高精度なホットエンボス技術、低温直接接合技術及び、表面親水化技術に関して研究を行い、それを化学/生化学マイクロチップへ応用して、合成樹脂製血球分離チップへの応用を目指し、ポリ尿素のVUV/O3処理の最適化を行っている。
  演題2:「スギ花粉症の治療効果を予測するバイオマーカー探索」
  千葉大学大学院 医学研究院 耳鼻咽喉科 教授 岡本 美孝
 既存薬による薬物治療の改善(寛解)率は20%前後であり、根本治療法の開発が望まれている。一方、抗原特異的免疫療法(減感作療法)は、67%の寛解率を示し注目されている。従来の皮下注射法に代わる舌下免疫療法は、患者負担が少ないが、患者の症状が著しく強い日本特有のスギ花粉症に対して、スギ花粉エキスを用いた舌下免疫療法の有効性、安全性は不明である。千葉大学では2004年以降、スギ花粉症患者を対象に、臨床試験を行ってきた。現在、プラセボ対照二重盲検試験で得られた末梢血単核球を用いて遺伝子発現解析を行い、治療効果を予測するバイオマーカー検索を行っている。
  演題3:「関節リウマチの治療効果を予測するバイオマーカーの探索」
  千葉大学大学院 医学研究院 遺伝子制御学 教授 中島 裕史
 関節リウマチ治療は、炎症性サイトカインを標的に多くの生物学的製剤が開発され、既存治療より高い関節破壊抑制作用を示し、早期から積極的に使用することが推奨されている。しかし、薬剤費が高く、無効例も多く、感染症等、重篤な副作用も比較的高頻度に認められるため、各生物学的製剤の有効性を予測するバイオマーカーの確立とそれを利用したテーラーメイド医療の達成が求められている。アクテムラ投与症例において、末梢血単核球とCD4陽性T細胞を採取し、遺伝子発現をDNAアレイで解析する研究を開始し、現在Real time-PCRによる確認作業を行っている。
  演題4:「次世代ヒト疾患モデルマウス作製のための技術開発とその利用」
  (財)かずさディー・エヌ・エー研究所 副所長・ヒトゲノム研究部長 小原 收
 ヒト疾患モデルマウスは、基礎研究だけでなく、免疫アレルギー疾患克服のための臨床・創薬研究の基盤となる。第三世代の免疫不全マウスを創出していくための技術開発を行うこと、創出された第三世代の免疫不全マウスを使って得られる「造血・免疫系ヒト化マウス」がどこまでのヒト造血環境をマウス内に再現できているかを明らかにし、さらにはどこまで実際の病態の再現ができているのかを調べることを目的として、人工染色体(HAC)技術を活用し、ヒト環境を持った免疫不全マウスを作製し、得られた免疫不全マウスによる機能解析を行っている。また、ヒト免疫不全症の一つであるBTK遺伝子欠損症患者からの骨髄移植を行い、正常造血細胞ではB細胞分化が正しく見られるのにもかかわらず、患者由来造血細胞移植ではマウス体内にB細胞成熟障害が再現できることを確認した。