日 時: | 平成24年9月26日 (水) 13:30〜18:30 | |
会 場: | かずさアカデミアホール202会議室(かずさアカデミアパーク内) | |
参加者: | 講演会 65名 懇談会 40名 |
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来賓挨拶: | 文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課 専門官 竹下 勝 様 |
学術講演1: | 「水力学的濾過システムを用いた微粒子・細胞の分離」 千葉大学大学院工学研究科 共生応用化学専攻 教授 関 実 様 |
安価で簡便な微小物体(細胞・粒子等)分離技術として、マイクロ流体デバイスを利用する新しい手法の原理およびその応用が詳細に紹介された。
関らは、流路サイズに近い大きさを持った微小物体を水力学的に正確にハンドリングする方法として、@マイクロ流路内水性二相層流分配法、Aピンチド・フロー・フラクショネーション(Pinched Flow Fractration: PFF)法、B水力学的濾過(Hydrodynamic Filtration: HDF)法等を提案した。 水力学的濾過法では、粒子を含む流体と粒子を含まない流体を流路に導入するだけで、導入した全ての粒子を大きさにより連続的に分離・濃縮し回収することができる。この技術は、血球細胞など細胞分離、溶媒の交換、細胞から核のみを取り出す処理等、幅広い応用が可能であることを示した。今後、医療および化学・工業分野での応用が期待できる。 |
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学術講演2: | 「細胞外マトリックスタンパク質:ペリオスチンによるアレルギー性炎症の慢性化機序」 佐賀大学医学部 分子生命科学講座分子医化学分野・臨床検査医学講座 教授 出原 賢治 様 |
先進国の小児の10-20%が罹るアトピー性皮膚炎の病態メカニズムについて説明があった。アレルゲンは、表皮に作用しTSLP/IL-25/IL-33を産生させtype2 innated lymphoid cell/Nuocyte/ Natural helper cellを介して、あるいは樹状細胞を介してTh2細胞を活性化することにより、IL-4/IL-5/IL-13を分泌し炎症細胞を活性化するといわれている。 出原らは、以前、細胞に結合して細胞機能を調節するマトリセルラータンパク質の一つであるペリオスチンがTh2型サイトカインであるIL-4/IL-13により誘導され、気管支喘息の線維化(基底膜肥厚)に関与していることを示した。また、血中ペリオスチン値がステロイド抵抗性喘息患者に対する抗IL-13抗体の効果を予測しうるとの報告が昨年出されたこともあり、ぺリオスチンのアトピー性皮膚炎の病態形成における役割の検討を開始した。 アトピー性皮膚炎患者において、ぺリオスチンは真皮で高発現しており、血清値でも高かった。ダニ抗原で感作したADモデルマウスの皮膚組織において、ぺリオスチンの高発現が確認され、ぺリオスチン欠損マウスではアトピー性皮膚炎の所見が消失していることを確認した。ぺリオスチンの作用機序を解明するため、3D air-liquid 共培養システムを用いたin-vitro 試験により、ぺリオスチンがIL-13存在下で表皮細胞の増殖・分化を促進すること、ケラチノサイトからの炎症性サイトカインの産生を誘導すること、表皮細胞を刺激し樹状細胞を介してTh2分化を誘導すること、表皮細胞のNF-kBを活性化すること等を示した。In-vivoのADモデルマウスにおいても、抗αvインテグリン抗体がAD様所見を予防投与でも、治療投与でも改善することを示し、ぺリオスチンがケラチノサイト上のαvインテグリンと反応し、炎症誘発性サイトカインの産生を誘導することを示唆させた。また、αvβ3インテグリン発現細胞株を作製し、ペリオスチン阻害剤の探索スクリーニング系を確立した。なお、アトピー性皮膚炎の悪循環を断つための標的として、IL-13とぺリオスチンが考えられるが、持続性の面でぺリオスチンをターゲットにする方が優れた効果を期待できるのではないかと考えている。 |
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【研究テーマ紹介】 | |
研究テーマ1: | 演題1 「免疫・アレルギー疾患克服のための先端ゲノム解析基盤整備とその実用化研究」 (公財)かずさDNA研究所 副所長・ヒトゲノム研究部長 小原 收 |
次世代シーケンサーの登場により、速やかに且つ低コストで遺伝子診断が可能なパーソナルゲノムの時代が到来しつつある。癌では国際的なコンソーシアムがつくられ、様々な癌組織での遺伝子変異のアトラスが作製され、癌細胞出現と増悪プロセスの解明ならびに癌治療の新しい作用点の発見を目指す等の活用段階に入っている。
「ゲノム医学が予防医学に本当に貢献できるか」については、パーソナルゲノム情報だけでは従来の病歴、検診、生活習慣のコントロールを上回る様な効果を期待することはできないが、パーソナルゲノム解析から遺伝的に罹患可能性の高い疾患をあぶり出した上で、 できる限りの網羅的オミックス解析を定期的に行う事によって「未病」状態を見分けられるバイオマーカーが見つかる可能性がある。患者の状態をより正確に把握するための検査を、安全・簡単に、しかも経済的に行えるデバイスの開発とそれを用いた先進ゲノミクス 解析拠点の実現が今後必要とされると考える。 かずさ・千葉地域を疾患遺伝子解析拠点化することを目指して、次世代高速DNAシーケンサーを用いた免疫・アレルギー疾患の疾患原因遺伝子の探索型研究を行っており、目的ゲノム濃縮法を基礎とした特定領域の網羅的遺伝子解析や全エクソン配列解析などを実施し、自己炎症・免疫不全症において新しい疾患変異候補を同定してきている。さらに、次世代シーケンサーを用いることで確定遺伝子診断法を極めて低コスト化する方法を確立することを目指し、自己炎症疾患(CINCA) のNLRP3 遺伝子モザイク変異について診断法を開発した。また、社会ニーズに答え、オーファンネット・ジャパンの希少疾患遺伝子検査の受託を開始当初の9疾患から19疾患に増やし、遺伝子解析コストを大幅に削減するだけでなく、より診断確立を向上させるために遺伝子パネル解析法の技術開発を続けている。 |
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演題2 「関節リウマチに対する生物学的製剤の薬効予測法の開発」 千葉大学大学院医学研究院 アレルギー・臨床免疫学 教授 中島 裕史 |
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関節リウマチ(RA)は破壊性関節炎を特徴とする全身性の炎症性疾患であり、その患者数は日本全国で約70万人と推定されている。治療には、炎症性サイトカイン等を標的に多くの生物学的製剤が開発され、DMARDsより高い関節破壊抑制作用を示す生物学的製剤を早期から積極的に使用することが推奨されている。しかし、生物学的製剤は薬剤費が高く、無効例も一定の割合で存在し、感染症等、重篤な副作用も比較的高頻度に認められるため、各生物学的製剤の有効性を予測するバイオマーカーの確立と、それを利用したテーラーメイド医療が期待されている。
トシリズマブは日本で開発されたヒト化抗ヒトIL-6受容体抗体製剤であり、RAに対して抗TNF-α抗体製剤と同等の高い有効性と寛解率を奏することが報告されているが、抗TNF-α抗体製剤より効果発現が遅いため、薬効予測法開発への期待度が高い。一方、アバタセプトはT細胞補助シグナル分子であるCTLA4とヒトIgG1のFc領域の融合蛋白であり、T細胞の活性化を抑制することにより発症早期から難治例まで幅広いRA症例に高い効果を発揮することが示されているが、トシリズマブ同様に効果発現が遅いため、薬効予測法の開発が期待されている。 そこで本研究者らは、トシリズマブ、或はアバタセプトが投与されるRA患者の末梢血単核球及びCD4陽性T細胞の遺伝子発現を有効例(CDAI及び医師総合評価)と無効例で比較することにより、薬効予測遺伝子の抽出を試みた。その結果、トシリズマブの有効性を予測する新たな薬効予測遺伝子を複数抽出することに成功した。 さらにトシリズマブの有効例において、トシリズマブ投与前後でCD4陽性T細胞における遺伝子発現を比較し、新規のIL-6応答性遺伝子を複数見出した。見出した新規遺伝子Gene-Xは、トシリズマブが著効を示した患者では発現が低下した。Th17細胞分化誘導条件下およびIL-6添加条件下にてStat3依存的に発現が誘導され、Th17細胞分化誘導条件下でIL-17の産生を抑制した。また、GeneXはRORgtと直接結合し、RORgt依存的なIL-17の産生を抑制した。GeneXはStat3依存的に発現が誘導され、RORgtによるTh17細胞の分化誘導を抑制することより、Th17細胞分化に対するブレーキとして機能していることが推測される。 |
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演題3 「遺伝子操作を加えることにより、ヒトにより近い免疫環境を再現する免疫不全マウスの作製」 (公財)かずさDNA研究所 ヒトゲノム研究部細胞工学研究室 プロジェクト研究員 長谷川 嘉則 |
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現在、重度の免疫不全マウスにヒト造血幹細胞を移植して、マウスの体内においてヒトの造血・免疫系を再現する「第二世代造血免疫系ヒト化マウス」が開発されている。このマウスを用いることで、移植された幹細胞からヒトの造血免疫細胞が増殖され、ヒトの造血免疫系をマウスの体内である程度再現することができるようになった。しかし、ヒトリンパ球が抗原特異的IgGを産生出来ないなど、まだヒトの造血免疫系を完全に再現するには至ってない。そこで、HLAや各種のヒト造血因子遺伝子などを導入することで、より臨床的な応用性の高い第三世代造血免疫系ヒト化マウスの開発を目指した。
舛本らは、ヒトセントロメア領域に存在するアルフォイドDNAをヒト培養細胞のHT1080細胞に導入する事によって、ヒト人工染色体(Human artificial chromosome, HAC)を効率良く作製するという方法を世界で初めて確立した。一旦作製されたHACは、細胞のもつ本来の染色体からは独立して存在し、細胞周期に応じて複製、分配されるため、長期間にわたり細胞を培養した場合においても安定に維持される。これらのHACの特性を基にして、(株)クロモリサーチにおいてHACベクターが開発された。HACベクターは、「狙ったコピー数の遺伝子挿入が可能」、「ゲノム由来の調節領域を含めた巨大な遺伝子領域を挿入できる」などの有利な特性がある。 舛本らは、このHACベクターを利用してMHCクラスII分子であるHLA-DR のヘテロダイマーを構成するHLA-DRA とHLA-DRB1遺伝子をマウスに導入した。HLA-DRA は100kbのゲノム領域、HLA-DRB1*0405は50kbのゲノム領域をそれぞれ1コピーずつHACベクターへ搭載後(以下、HLA-HAC)、マウスES細胞へ導入して、HLA-HAC保有マウスを作製した。HLA-HAC保有マウスにおいて、HACベクターへ搭載したHLA-DRは組織特異的発現を示し、脾臓細胞では表面抗原として機能している事が確認された。そこで、HLA-HAC保有マウスとNOD/SCID IL2rnullマウスとの戻し交配を進めている。 |