かずさ・千葉エリア「平成25年度産学官連携交流会」報告

日 時: 平成25年9月25日(水)13:30〜18:30
会 場: かずさアカデミアホール201会議室
参加者:

講演会  77名
懇談会  40名

 
来賓ご挨拶: 文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課
主査 高山 枝里子 氏 
 
学術講演1: 「白血病再発の主原因「白血病幹細胞」を標的とした低分子化合物の同定」
独立行政法人理化学研究所 統合生命医科学研究センター ヒト疾患モデル研究グループ
グループディレクター 石川 文彦 氏

 演者らは、白血病幹細胞を免疫不全マウスに移植して、患者白血病状態を再現する「白血病ヒト化マウス」を作製し、それを用いて幹細胞が白血病を発症する機構や白血病幹細胞が抗がん剤に抵抗性を示し再発を来すメカニズムを解析すると同時に、白血病幹細胞に発現する治療標的分子の抽出を行い、白血病幹細胞を標的とした治療薬の探索を試みた。
 骨髄中心部に存在する幹細胞以外の白血病細胞は細胞周期に入っている一方、白血病幹細胞は、骨内膜周辺にてKi67陰性から弱陽性のものが多く、細胞周期が静止期に近いことが確認された。抗がん剤抵抗性を示す白血病幹細胞への治療方針の一つとして、G-CSF投与による骨芽細胞接着白血病幹細胞の細胞周期誘導現象を確認したが、症例間でのG-CSF感受性に違いが見られた。
 次に演者らは、白血病幹細胞特異的分子標的として、細胞増殖にかかわるキナーゼの中で、HCKとよばれる分子が多くの症例の白血病幹細胞に発現していることを突き止め、低分子化合物ライブラリーをHCK酵素阻害活性によりTHSスクリーニングに掛け、ヒットした化合物をin silicoのDocking Studyで絞込み、治療候補物を同定した。
 見出した化合物RK-20449は、in-vitro及びin-vivoで白血病幹細胞を死滅させる活性を示し、特にFlt3遺伝子異常をもった悪性度の高い白血病幹細胞に対して効果が著明であった。また、ヒトの病態を反映した「白血病ヒト化マウス」を用いた試験において、複数の患者由来の白血病幹細胞をほぼすべて死滅させることができたこと、再発を認めず貧血や脾腫の正常化など組織学的・病理学的に改善が認められたこと、など今後、白血病根治薬として期待が高まった。

 
学術講演2: 「悪性腫瘍に対する免疫・遺伝子療法の現状:自験例を中心に」
九州大学生体防御医学研究所 ゲノム病態学研究分野 九州大学病院 先端分子細胞治療科  教授 谷 憲三朗 氏
 九州大学病院におけるトランスレーショナルリサーチの試みとして、5年前より文部科学省・橋渡し研究支援拠点に、昨年より厚生労働省・臨床研究中核病院に承認され、日本発の革新的医薬品、医療機器の創出をめざした臨床研究を推進してきている。演者らは、この中で特に悪性腫瘍に対する免疫・遺伝子療法など新規治療法の開発研究を行って来ており、その成果について紹介した。
 ペプチドワクチン療法としては、DNAマイクロアレイで見出した腫瘍抗原由来エピトープペプチド5種(KOC1,TTK,CO16,DEPDC1,MPHOSPH1)を用いたPhase-1臨床試験が進行性固形腫瘍(消化器がん、肺がん、子宮頸がん)を対象に22例中18例で定着され、9例にStable Disease(SD)が認められた。目立った副作用も認められてない。新規標的としては、同教室の高橋らが見出した癌精巣抗原FEATについて、前臨床試験が進められており、臨床応用が期待される。
 免疫細胞療法としては、大腸がんで高発現するRNF43をパルスした樹状細胞療法及びそれにより共培養活性化した細胞傷害性Tリンパ球を用いた腫瘍免疫療法が、12例中10例で評価可能であり、その内7例にSDを認めた。安全性にも問題なかった。なお、抗CTLD4、PD-1およびPD-L1は、将来的に有望な免疫療法として紹介された。
 遺伝子治療としては、中国でp53の遺伝子治療が試みられている。演者らは、GM-CSF遺伝子を免疫担当細胞や腫瘍細胞に遺伝子導入後、ワクチンとして患者に投与することにより抗腫瘍効果を得ようとするex-vivo免疫遺伝子治療を6例中4例で実施している。また、麻疹ウイルスやエンテロウイルスを用いた腫瘍ウイルス溶解療法が基礎研究の段階にある。なお、ウイルス療法の場合には抗体が生じるために1回の投与しかできない。そのため、ステルス化等の改良が要求されている。
 
【研究テーマ紹介】
テーマ1:免疫・アレルギー疾患克服のための先端ゲノム解析基盤整備とその実用化研究
演題1:「疾患遺伝子解析研究の拠点化に向けて:遺伝子検査の省力化と低コスト化研究」
(公財)かずさDNA研究所 副所長・ヒトゲノム研究部長 小原 收

 開所当時の最新鋭主力装置であったキャピラリーDNAシーケンサーは研究の最前線から退き、 次世代シーケンサーによるゲノム解析が不可欠の時代に突入している。そうした歴史的な流れの 延長線上に、このかずさ・千葉地域を次世代高速DNAシーケンサーを用いた疾患遺伝子解析拠点と することを目指して、本事業では以下の2点に焦点を合わせた研究活動を展開している。
次世代シーケンサーを用いることによって既知の確定遺伝子診断を極めて低コスト化する方法の確立を目指している。均等化マルチプレックス法と次世代シーケンシングを用いた遺伝子パネル解析法の開発など、安価な遺伝子検査を提供するための産学官連携の下での技術開発を続けており、各種疾患の遺伝子診断をパネル化した遺伝子のセット(複数候補遺伝子の同時解析)が既に稼働し始めている。こうした遺伝子解析には不可避的にバイオインフォマティクス解析が要求されるが、それに応えるための産学官連携の枠組みも構築している。
 第二は、臨床グループ、装置・試薬メーカーとのネットワーク構築である。NPO組織のオーファンネット・ジャパンからの希少疾患遺伝子検査の受託対象疾患を大幅に増やし、将来的にはオーファンネットの遺伝子検査を全てかずさDNA研究所に移して行く方向で準備を進めている。また、地域貢献の意味も含めて、千葉大学や千葉こども病院の遺伝子検査グループとも連携を開始し、かずさDNA研究所で受ける遺伝子検査のレパートリーを拡大してきている。さらに、どこの施設でも採算性等の問題で受け入れられてない遺伝子検査について情報交換を行うとともに、我々のこうした取り組みの社会的認知度の向上に努めている。こうした取り組みの結果として、かずさDNA研究所の遺伝子解析機能をハブとして、国際的にもユニークな、臨床医の先生方、装置・試薬開発メーカーの方々、基礎研究者コミュニティーとの複合的なネットワークがかずさに構築されつつある。

 
テーマ2:免疫関連難治疾患の治療効果判定・予後予測のためのバイオマーカーの探索開発研究
演題2:研究テーマ2「抜去毛包由来角化細胞から作製した三次元培養表皮の意義と応用」
千葉大学大学院医学研究院 皮膚科学 講師 鎌田 憲明

 ヒトの上皮細胞を増殖させた培養細胞等が、動物実験代替法の実験モデルとして用いられるようになり、三次元培養表皮が商品として販売されている。しかし、用いられている表皮角化細胞は手術の際の余剰皮膚由来であり、角化細胞が採取された個体の背景が明らかでないため、得られた三次元培養表皮モデルでは個体差を評価できない等の問題がある。その一方で、個別に得た表皮角化細胞を使用することで三次元培養表皮を作製することは可能であるが、皮膚生検等が必要であり、提供者にかなりの侵襲や苦痛を与えるとともに観血的な手技であることから、術者への感染リスクも伴うことになる。
 演者らは、ヒト抜去毛包由来の角化細胞に着目し、ヒト毛包由来の角化細胞を培養することで、個体差を評価できる三次元培養表皮の作製を試みた。この方法では、毛髪を抜くという簡単な手技だけで角化細胞を得ることができるため、従来の皮膚生検と比較して提供者の負担も軽減され、また非観血的手技であるため術者への感染リスクを回避できるという利点もある。その細胞を用いて三次元培養表皮を作製したところ、毛包由来の三次元培養表皮と皮膚由来の三次元培養表皮は組織学的に類似しており、遺伝子発現においても相違ないこと、ケラチンやフィラグリンの発現も類似していることを確認し、ヒト皮膚を代替できることが示唆された。また、11代継代しても性状が変わることはなかった。
 この三次元培養表皮モデルを利用することによって、皮膚刺激試験のツールとして使用できるほか、皮膚疾患の原因遺伝子探索や、病因の同定、などの応用が考えられる。

 
テーマ3:次世代ヒト疾患モデルマウス作製のための技術開発とその利用
演題3:「ヒト人工染色体HACの基礎技術開発と疾患モデルマウス作製への応用」
(公財)かずさDNA研究所 ヒトゲノム研究部 細胞工学研究室 室長 舛本 寛

 演者らは、ヒト染色体セントロメア領域に由来する反復DNA配列、アルフォイドDNA、をヒト培養細胞HT1080細胞へ導入することによって、ヒト人工染色体(HAC)を作製する方法を開発した。このHACは、本来の染色体から独立したミニ染色体であり、細胞の増殖を通じて安定に複製、分配、維持される。さらに、完全合成した反復DNAを用いて、テトラサイクリンリプレッサー(tetR)融合タンパクの結合によりセントロメア機能を操作して、脱落制御できるHACの開発やどのような細胞株でもHACをde novoに作製する技術開発にも成功した。
 演者らは、部位特異的組換え反応を利用して容易に巨大遺伝子を組込めるHACベクターを開発している(株)クロモリサーチ社と協力して、「遺伝子操作を加えることにより、ヒトにより近い免疫環境を再現する免疫不全マウスの作製」に取り組んできた。本研究では、ヒトMHCクラスU分子であるHLA-DR のヘテロダイマーを構成するHLA-DRA とHLA-DRB1遺伝子をHACベクターへ組込んで、これを保持するマウスを作製することを目指した。HLA-DRA は100kbのゲノム領域を、HLA-DRB1*0405は50kbのゲノム領域を、それぞれ1コピーずつHACベクターへ搭載後(以下、HLA-HAC)、マウスES細胞へ導入して、HLA-HAC保有マウスを作製した。HLA-HAC保有マウスを調べたところ、ACベクターへ搭載したHLA-DRはマウス体内において組織特異的な発現様式を示し、脾臓細胞では表面抗原として機能している事が確認された。そこで、HLA-HAC保有マウスと免疫不全マウス(NOD/SCID IL2rnull)との戻し交配を進めたが、NOD-SCIDマウスにHLA-DRA とHLA-DRBの2つの遺伝子を搭載したマウスに置いては早い段階で人工染色体の脱落が起こった。この解決策を種々検討している。なお、同じ免疫不全マウスであるRag1(-/-)マウスでは、HLA-DRAとHLA-DRB1導入マウスを作製することができた。