テーマ 34遺伝子は種間を移動します

スタンリー・コーエンとハーバート・ボイヤーが、組換えプラスミドで細菌を形質転換し、ダグラス・ハナハンが形質転換を誘発する研究をします。

ハロー。私はスタンリー・コーエンです。そして私は、ハーバート・ボイヤーです。 1972年、私たちはハワイの生物学会議に参加しました。当時、私は抗生物質に対する細菌耐性を、ハーバートは制限酵素を研究していました。私たちは、異なる細菌の遺伝子を組換えてひとつのDNA分子にするための研究を一緒にできると気がつきました。 私たちは大腸菌の2種類の薬剤耐性株由来の遺伝子を使用しました。ひとつは抗生物質テトラサイクリンへの耐性を与え、もうひとつは、カナマイシンに対する耐性を与えます。 [大腸菌] [テトラサイクリン] [カナマイシン] それぞれの遺伝子は大腸菌のプラスミドで運ばれています。プラスミドは小さな環状DNAで、細菌の主となる染色体とは独立に存在します。プラスミドは複製され、子孫に受け渡すことができます。 私はプラスミドからpとスタンリー・コーエンからSCを取って名づけました。pSC101プラスミドはテトラサイクリン耐性遺伝子を、pSC102は、カナマイシン耐性遺伝子を運びます。 [tetr遺伝子] [kanr遺伝子] 私たちはこれらのプラスミドを持った大腸菌株を育てて、プラスミドDNAを分離しました。 プラスミドDNAに制限酵素EcoRIを加えました。EcoRIは“粘着”末端と呼ばれる短い一本鎖の配列ができるように認識部位の中心から外れた部分のDNA鎖を切断します。 [制限酵素] [粘着末端] 私たちは切断したプラスミドを混ぜ合わせ、DNAリガーゼを加えました。 [ DNAリガーゼ] EcoRI末端を持つ断片は相補的です。そのため、他の断片と組換わることができます。水素結合は、リガーゼが糖-リン酸結合を修復し、安定した組換え分子を作るまで、2つの粘着末端を整列させます。 私たちの目的は、kanr遺伝子とtetr遺伝子をひとつのプラスミド上に組み合わせることです。しかしながら、他の部分の分子も一緒に連結してしまっていました。 私たちが得ようとしている組換えプラスミドを分離するのに、結合させたプラスミドを大腸菌に入れる方法が必要でした。オズワルド・アベリーのグループの実験は、肺炎双球細菌が毒性株から得られたDNAによって“形質転換されて”毒性になることを示していました。 しかし、自然な形質転換はまれな出来事なので、私たちはハワイ大学のマンデルと比嘉が1970年に開発した科学的方法を用いました。凍結温度(氷上)で細菌とDNAを塩化カルシウム溶液の中で混ぜました。それから、“ヒートショック”を与えるために急速に温度を上げ下げしました。 [ヒートショック] この技術は大腸菌がプラスミドDNAを取り込むのを誘導します。私たちは、形質転換された大腸菌をテトラサイクリンとカナマイシンの両方を含む培養プレート上に広げました。両方の耐性遺伝子を含む、形質転換された大腸菌のみが両方の抗生物質の存在下で増殖することができました。 結果はtetrとkanrの両方を持つ組換えられたプラスミドによって形質転換された大腸菌であることと一致していました。 けれども、オリジナルのプラスミドが再度結合したものによって、二重に形質転換されることでも可能でした。 制限酵素は、いくつかのコロニーが組換えられたプラスミドによって形質転換されていることを示しました。私たちは、切断されたプラスミドを切断し、アガロースゲル上で電気泳動することで、どれがどれか示すことができます。(それぞれのバンドにカーソルを重ねて、違いを見る。) [組換えプラスミド] 私たちは世界で初めて、組換えプラスミドを作りました。数ヶ月後、私たちは同じ方法で、真核生物由来の遺伝子と原核生物由来の遺伝子を組換えることができることを示しました。大腸菌のプラスミドの中にカエルの遺伝子を挿入したのです。このプラスミドはカエルのRNAを作りました。 こんにちは、私は、ダグ・ハナハンです。ハーバード大学の大学院生のときに、大腸菌の形質転換を初めて徹底的に研究しました。ここにマンデルと比嘉の方法で形質転換された大腸菌細胞で何が起こっているかについての私の考えを示します。 早く増殖しているときには、大腸菌の細胞膜には、アドヒーション(粘着)部位と呼ばれる数百の細孔があります。 [アドヒーション部位] 細胞膜は、負に帯電したリン酸を持つ脂質分子(リン脂質)で構成されています。 [外側] [アドヒーション部位] [脂質分子] [内側] [細胞膜] アドヒーション部位はプラスミドDNAが入るのに十分な大きさですが、DNAの負に帯電したリン酸は脂質にあるリン酸によって撃退されます。 [DNAプラスミド] 理論的には、加えられた塩化カルシウムのCa2+イオンは、負の電荷と複合体を形成し、電気的に中性の状態を作り出しことができます。 また、温度を下げることで、負に帯電したリン酸を安定化し、(Ca2+イオンがリン酸を)覆(おお)うのが簡単になり、脂質膜が固まります。 ヒートショックは、細菌の細胞膜の両側に温度差を作り出します。温度差は流れを作ります。 “イオンの盾”とともに、DNAはアドヒーション部位を通り抜けます。 形質転換と組換えDNAの技術は、バイオテクノロジーという分野を作り出しました。今では、この技術によって、インシュリンのような重要なヒトタンパク質を作るために、細菌を操作することが可能になりました。 [細菌] [細菌がつくったインシュリン] しかしながら、インシュリンや他の真核生物のタンパク質を細菌につくらせるためには、多くの要因を考慮する必要があります。24章で学んだように、真核生物の遺伝子は、非コード領域であるイントロンを持っています。 [ヒトインシュリン遺伝子] 細菌の遺伝子はイントロンを持っていません。そのため、細菌はイントロンを取り除くための生化学的なしくみを持っていません。 別の考慮事項もあります。いくつかの真核生物のタンパク質は翻訳後に加工されます。例えば、インシュリンは108アミノ酸のプレプロインシュリンとして翻訳されます。 [インシュリンmRNA] [リボソーム] [プレプロインシュリン] 最初の24個のアミノ酸はプレプロインシュリンを細胞外に導くシグナル配列です。タンパク質が細胞から離れるとシグナル配列が切断され、プロインシュリンが残ります。プロインシュリンは更なる処理を受けるために膵臓(すいぞう)に貯えられます。 [プロインシュリン] プロインシュリンがループ状に折り畳まれると、タンパク質にあるシステイン残基の持つアミノ基の間でジスルフィド結合が形成されます。 成熟したインシュリンタンパク質を残して、33個のアミノ酸が切り取られます。 [インシュリン] 細菌はプレプロインシュリンをインシュリンに処理することができません。そのため、使用可能なインシュリンを細菌につくらせるために、いくつかのトリックを使いました。まず、インシュリンのmRNAのコピーの代わりに、A鎖とB鎖の2つのインシュリン鎖のタンパク質配列を元に作成したDNAを作ります。 [A鎖] [インシュリン] [B鎖] それから、DNA合成酵素で相補鎖を作ります。これらが、プラスミドに挿入される二重鎖DNA断片です。 それぞれのDNA断片はプラスミドのβガラクトシダーゼ遺伝子の中に挿入します。プラスミドはテトラサイクリン耐性遺伝子も持っています。 プラスミドを大腸菌に形質転換します。テトラサイクリンは、形質転換されていない大腸菌を殺すために加えます。 形質転換された大腸菌を生育させ、βガラクトシダーゼとインシュリンの融合タンパク質を回収し、精製します。 タンパク質のβガラクトシダーゼ部分を切断し、取り除きます。 最後に2つのタンパク質鎖(A鎖・B鎖)を混合します。適切な条件でジスルフィド結合を形成することにより、細菌から使用可能なヒトインシュリンが作られました。

factoid Did you know ?

コーエンとボイヤーの組換えDNA技術はバイオテクノロジー産業を“作り出しました”。1974年に技術が特許化され、1976年には最初のバイテク企業、ジェネンティック社が組換えDNA技術に基づいて設立されました。

Hmmm...

細菌は、“組換え”DNAをつくるために必要な酵素を全て持っています。なぜ組換えが定期的に起こらないのでしょうか?