テーマ 36細胞ごとにさまざまな遺伝子が活性化されます

イゴール・ダヴィド トム・サージェント パット・ブラウン スティーブ・フォダー イゴール・ダヴィドトム・サージェントは、cDNAサブトラクション法を用いて、遺伝子発現変動を解き明かす研究を初めて行いました。パトリック・ブラウンスティーブ・フォダーは、DNAアレイやジーンチップ®を用いて、ゲノムを解析する方法を変えました。

パトリック・ヘンリー・ブラウン(1954-)


Pat Brown

 パット・ブラウンは、ワシントンDCで生まれました。学生の頃は優秀であったにもかかわらず、科学者になろうという、確固たる気持ちは持っていませんでした。彼は、物事が作動する仕組みに好奇心を抱き、また、人びとを助けることにも興味を持っていました。そのため、1980年に生化学博士号と1982年に医学博士号を共にシカゴ大学大学院において修得することも、彼にとってみれば、自然なことだったようです。

 基礎研究に没頭すべきか、医学の道に進むかを決めかねていたようで、ブラウンは、シカゴ子供記念病院の小児科で、研修医を始めました。研修医として患者を診察している3年の間に、ブラウンは、自分が抱いていた“物事が作動する仕組みに対する好奇心”が、遺伝病が発症する仕組みを解き明かすことに貢献できることを実感しました。ひとりの人間が、他の人々と異なるということを決定するものは何か、また、その違いを抽出する現実的な方法があるのでしょうか?

 ブラウンは、1985年に基礎研究に戻り、カリフォルニア大学サンフランシスコ校マイケル・ビショップの研究室で3年の間、博士研究員として研究を始めました。博士研究員の後、ブラウンは、ハワード・ヒューズ医学研究所の研究員として、ひとつの研究室を任されました。現在、彼は、スタンフォード大学医学部生化学教室の教授です。

 ブラウンは、“遺伝的差異”という考え方を決して忘れていませんでした。彼は、全ての生物のDNAを個体ごとに比較することの、実現可能性と有益性を考え始めました。科学者たちは、個々の遺伝子のDNA配列を比較する時に、遺伝的な相似や進化の歴史、そして遺伝子機能の維持に関する情報を得るのです。ブラウンは、生物の持つ全ての遺伝子全体と別の生物を比較できるようスケールアップしたいと思いました。これは、個別の遺伝子配列の解析と比較からだけでは得ることのできない、遺伝子発現パターンの多様性に関する情報を与えてくれるからです。彼は、DNAサンプル[遺伝子断片]を行列上に並べて固定した、DNAアレイというツールに落とし込むことを考え始めていました。

 この研究プロジェクトの最初から、ブラウンは、何が必要かというビジョンを明確に持っていました。サンプルの準備は、誰もが利用できる機器であると共に、安価で簡易にできなければならない、というように。彼の最初の技術者との共同研究は、DNAアレイを作製する機械の設計に凝りすぎたため、失敗に終わりましたが、最終的には、エレガントと呼ぶに値する、万年筆のペン先を応用した作製機を作り上げたのです。DNAを含む溶液は、万年筆型ペン先に吸い上げられ、微量のDNA溶液が、スライドガラス上に印刷されるというような技術応用です。コンピュータ制御による自動化で、DNAアレイ上には、8万サンプル以上のDNA(推定されるヒト遺伝子の総数以上)を印刷することができます。

 1995年にブラウンは、遺伝子発現パターンを解析するためにDNAアレイを利用したという、彼の数多くの論文の中の最初の論文を発表しました。彼は、DNAアレイの作製方法を説明する、多くのワークショップを開催し、彼のウェブサイトでは、プロトコールも公開しました。

 ブラウンは、情報の自由化の提唱者であり、PubMed Central[PMC:生物医学・生命科学分野を対象とした無料の論文アーカイブ]の諮問委員です。この委員会は、無料の電子媒体による情報交換の利用法を提供し、その利用を推進することで、科学研究情報の交換、保管、普及に努めています。

ブラウンは、研究をしていない時は家族と、特に彼の子どもたちと過ごす時間を大切にしています。また、彼は、ランニングを趣味とし、地元のマラソン大会にも参加しています。

factoid Did you know ?

ジーンチップ®技術は、1塩基の変異を検出できるほど高精度ですが、そのためには、ハイブリダイゼーションの条件が最適化されていなければなりません。

Hmmm...

A-Tペアの間には2つの水素結合が存在し、G-Cペアの間には3つの水素結合が存在します。これは、ジーンチップ上での、サンプルのハイブリダイゼーションにどのような影響を及ぼすのでしょうか?